突撃小鳥。
2006年 08月 18日
バン!!!‥‥何かが突撃してきた。
なんか、白くて小さくて、やわらかいもの‥‥。‥‥ふわふわの。
「小鳥だよーーーーー!」
僕と奥さんはちょっとパニックですよ。
僕は外を眺めておりましたから、激突の瞬間も見ていたのです。
何かが物凄い勢いで飛んできて、ガラス面でぶにぃっとひしゃげてはね返ってぼよっと落ちる一部始終を。一瞬ゆがんだ白いふわふわを。
「?!?!」
あわててベランダに駈けよります。
ドコダドコダドコダ?!?!
「あそこだ、奥さん!」
斜め前の隅っこにひっくりかえって、首を向こう側下に上下逆さまで。
こっちに突きだした足がピクピク痙攣している。
‥‥ヤバイ。
僕は思いました。
‥‥これはヤバイことになった。
この小鳥を庭に埋めてあげるにしても、手に取らなきゃ駄目だよね。
その時、おそらく半端ないスプラッタな状況の頭部とかが目に入っちゃったら。
‥‥眠れないよ。忘れられないよ。
しばらく二人で小鳥をじっと見ていました。
僕はハッと思いました。‥‥ガラスは?
慌てて目線を映したガラスにはちょっと脂っぽいオデコをくっつけたような跡があるだけ。
血痕はない。
‥‥最悪スプラッタはまぬがれたようだが。
「ねえ、まだ動いているよね?」奥さんが聞く。
小鳥に視線をもどせば、相変わらずピクピク痙攣する小鳥。
「でも、これはもう駄目かもわからんね‥‥」
「‥‥」
近寄ることも出来ず、かといって目を離すことも出来ず無言で見つめる僕達。
どうすればいいんだ。
いつになったら事切れるんだ。いつまで僕らは見てればいいんだ。
苦しいのか?今瀕死なら、いっそどうにかしてやっちゃう方が良いんじゃないのか‥‥?
それができるのか?
否。
僕らは見つめるだけ。
小鳥は痙攣するだけ。
‥‥‥‥と、いきなりピョコンと小鳥が起き上がったじゃないですか。
「おお!起きた!」
ほっとして胸をなでおろす。見た感じ外見的には問題無さそうだ。
目を閉じてうずくまってるかと思うと、急にキョロキョロ周りを見回す。
そしてまた目を閉じる。
目を閉じる。
じっとしている。
‥‥死んじゃった?
内臓破裂とか。頭蓋骨骨折とか。脳内出血とか。とかとかとか。
もう駄目かも、本当に駄目かも。と、思ったら、またキョロキョロする。
目を閉じるたびに僕は小鳥を埋めることを考える。
なんとかさえずるとか。
羽ばたくとか。
生きているアピールをしてくれないと、僕はもうこうやってトマトを片手に持ったまま30分も見ている。
多分痛くて動けないんだな。
だけど猫とか気になるんだろ?
ここには猫は来ないから。でも怖くて手が出せないから、自力でどうにかしてくれ。
僕は看取ったヒヨコのことを考えていた。
仲間に踏み付けられてハラがぶよぶよになっていた。か細く鳴いて一晩たって早朝死んだ。僕は一晩徹夜して看ていた。明日まで生きていたら病院に連れて行ってあげようと。でももたなかった。あいつがまるまって目をつぶっていた姿が小鳥とかぶる。
なあ、死ぬんだったら無理しないで死んでしまえよ。
結局死ぬんだったら、苦しい思いしない方が良いんじゃないか?
だけど、僕は小鳥が飛びたつことを願っていた。
だからその瞬間が見たいからいつまでも見ていた。
トマトは食べ終わったけれども、まだ見ていた。
そして小鳥はふいに飛びたった。
「飛べたよ!あの鳥、飛べたよ!」
久々に清々しい気分だ。
「あの鳥、何て鳥かしら?」
「たぶん、ゴジュウカラ」
「そぉ‥‥」
やっと日常が戻ってきた。